龍が吼えた。
吐き出された熱風が傭兵ヴェスラ・テスラニオンの頬を打つ。
「の野郎っ!」
彼は怨嗟の言葉を吐き散らしながら後退する。
「雷精よ! 汝、我が矢となれっ!」
光の矢が龍の足元で炸裂する。
魔法戦士メイエ・ラ・アカナバルが魔法で援護してくれたのだ。
その彼女を龍の太い尾が襲う。
「危ねえ!」
「わかってるわよ、そんなことっ」
間一髪、彼女は風の精霊の力を借りて宙へと舞い上がった。
「人の心配をしてる暇があったら、自分のこと心配なさい。テオン」
「うるへー。んなこたァおまいさんに言われなくともよ〜くわかってらァ」
テオンが強がりを言いながら、ブロードソードを構え、再度突撃する。鋼の鎧のような龍の外皮はテオンの刃をまったく受け付けない。
「このくそ野郎っ。頑丈にできてやがる」
「あんたってば、もう少しお上品な言葉遣いができないの?」
「生まれが下品なもんでね。今更直んねーよ」
口では冗談を言いながら、真剣な眼差しで二度三度と攻撃を繰り返す。
テオンとメイエ二人の絶妙な連携プレイに、さしもの龍も少々たじたじとなっている。
と、その龍の動きが停まった。
「やべえっ! またブレスを吐くぞ!」
テオンがメイエの腰にタックルした。二人はひとかたまりになってごろごろ物陰へと転がり込んだ。
「ちょっと。お尻に触んないでよ」
「いいから、頭を下げてろ!」
テオンがメイエの頭を押し下げた瞬間!
轟っ!
灼熱の熱風が二人の髪をちりちりと灼いた。
「おいしい丸焼きになりたくなかったら、じっとしてるこった」
「偉そーなこと言いながら、わたしのお尻に触んないでってーのっ!」
ぶんむくれているメイエを放っておいて、テオンはひとりごちた。
「くそー。何が悲しゅーて、こんな口うるさい女と二人でライドラゴン(渇砂龍)に立ち向かう羽目になっちまったんだ?」