Heaven's Feel -Fake End-

From “Fate/staynight”

1

[Heaven's Feel 編、「誓い」より]

1.……セイバーを助ける 
2.……この腕を振り下ろす 
3.……思い至る 

 両手で高く掲げたアゾット剣を振り下ろそうとしたそのとき、唐突に俺の脳裏にひとつの天啓が閃いた。
 ――違う! セイバーとの決着をつけるのは遠坂から借りたこの剣でじゃない。
 闇に取り込まれてしまったとは言え、セイバーはサーヴァントだった。
 サーヴァントを倒すことができるのは、基本的にサーヴァントだけだ。 英霊たるサーヴァントだけが持つ強力な宝具をもってこそ、ようやくサーヴァントという存在をこの世界から滅することができる。
 しかるに、ライダーの宝具“騎英の手綱ベルレフォーン”の直撃を食らってすら、セイバーはまだ現界していた。
 であるなら、彼女に引導を渡すには更なる宝具をもって、連撃を加えるほかない。
 それに、セイバーがこうして闇の手に落ちることになった所以ゆえんはマスターである俺が不甲斐ないせいに違いなかった。彼女が今の境遇にあるは俺の責任なのだ。
 ならば、そのセイバーに止めを刺す刺す宝具こそ、俺が自らの手で投影したものでなければならなかった。こんな借り物ではだめだ。
 例えここで俺の投影能力が尽きるとしても、それこそがこの不甲斐ない俺をマスターとして認めてくれたセイバーに対する礼儀であることに違いない。
 俺は持っていたアゾット剣を捨てた。
 投影すべき宝具をイメージする。
 ――ランサーの“刺し穿つ死棘の槍ゲイ・ボルク”。
 ――アサシンの“妄想心音ザバーニーヤ
 いや、俺の持つ能力は剣製――つまりは剣の投影だ。俺が自ら投影するのは剣でなければならないだろう。それならば、アーチャーの双刀である干将・莫耶か、バーサーカーの斧剣か。
「!」
 そのとき、またしても新たな天啓が俺の脳裏を貫いた。
 ――待て。もうひとつある。
 俺が今までに目にしたことのあるサーヴァントの宝具にはもうひとつ、剣の形をとったものがあった。
 ただし、ただ一度、それもその姿をちらりと一瞥しただけだ。
 でも、俺はその形や色、構造や材質を明確にイメージすることができた。
 妙な違和感を覚えていたせいだろうか。それは俺の心の隅に鮮やかな印象を残していた。投影、強化と並んで俺が体得している数少ない魔術である構造解析能力が無意識のうちに発現していたのかも知れない。
 とにかく、であるなら、俺はそのイメージを明確にトレースし、現実世界へと投影することができる。
 そして、俺の剣製能力者としての直感が、今必要なのはそれなのだと強く訴えていた。
 理由はない。ただ、そう感じただけだ。
 にも関わらず、俺は自分の直感を信じた。これこそが正しいのだと確信した。それで充分だった。
 俺は徒手空拳のまま、両手を高く掲げた。
 ――同調、開始トレース・オン
 目標とする剣の形状と材質、構造を強く思い浮かべる。それだけでなく、その剣の来歴や、鍛えた剣匠の想いにまで思いを馳せる。
 ――同調、完了トレース・オフ
 投影、した。
 俺の掌の中に、まったくの無から一振りの短剣が生じた。虹色の刀身を持つ、奇妙な短剣だった。刀身そのものが奇妙に捻くれている。
 それを勢いよく振り下ろした。
 同時に、俺は知らないはずのその宝具の真名を叫んでいた。
破戒すべき全ての符ルールブレイカー!」
 奇矯な形をした短剣が仰向けになったセイバーの胸へと突き立った。耐魔術能力を持つはずの鎧を容易く貫き通す。
 同時に、それがどっと溢れ出した。

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